メーカーにおける文系の存在意義ってなんだっていうはなし。


「文系の存在意義ってなんなのだろうか?」 
メーカーの文系社員としてずっと考えてきたこと。最近、これについて、少しばかり腹落ちするところに考え至ったので書き残しておこうと思う。

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どの立場から論じるのか。
自分は入社7年目、2009年入社組である。この代は大量採用→リーマンショック内定切りが横行した代だ。幸いにも自分の就職した先では内定切りは行われなかったが、やはりリーマンショックの影響は大きかったのか、通常時には新人は配属されない様な部署に色んな人が配属されていった。その中でも特に異質だったのが自分の配属先で、文系で事務系入社したにも関わらず技術系職場である開発本部に配属されたのである。

これが本当に幸運だった。元々本田宗一郎の相棒だった藤澤武夫に憧れ、ものづくりに対して高いモチベーションと夢を描いてメーカーに入社した。そんな自分としてはこれ以上ない環境を与えて貰ったのだ。

はじめの数年はまだ開発本部内でも多少事務系職の強い仕事をしていたが、周りの技術者たちに揉まれながら、今では完全に技術者領分の仕事も任されるようになった。今自分の立ち位置を名乗るとするとさしずめ「文系技術者」だろう。

そんな風なキャリアを積んできた(まだ7年ぽっちだけど)からこそ、入社以来抱いていた「事務系仕事は理系でも出来るけど、技術系仕事を文系は出来ない。じゃあ採用が文系を採る意味ってどこにあるんだろう?文系にしか出来ないことってなにかあるのか?」という疑問への回答が朧気ながら見えてきたのだと思う。

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理系にしかできない仕事とは?
「文系にしかできないことなどない。ややもすると理系の方が上手くやったりする。」 
これはあるひとつの現実であろうと思う。文系社員にとってはなかなかに凹む回答かもしれない。だけど、実は「理系にしか出来ない仕事」というのも非常に狭い範囲でもある。

たしかに強度計算をして設計行為を行ったり、解析をして難しい補正式を組んで制御にフィードバックさせたり、複雑な動作をさせるためのソフトコードを書いたりと言った実務作業はその専門である理系にしか出来ない。そう、"その専門である" 理系だ。つまり、ソフトコードを書くのが専門の理系は強度計算をして設計行為は出来ないのである。それは文系と同じレベルに。だけどそうした理系の人達も、出世するに伴い守備範囲を広げ、自分の専門分野と全然関係ない分野までマネジメントするのである。できるのである。元々文系と同じレベルだったのに。

これは何を表すかと言うと、「理系にしか出来ない仕事」はものづくりの実務作業の部分にしかなく、あとの領域では、そこに意識・興味を向けて知ろうとしさえすれば文系であろうが理系であろうが関係なく出来るということである。これは超最先端技術の開発職場にいる文系な自分の経験からくる所見なので、技術レベルの問題で変わってくる話でもないだろうと思う。

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企業はなぜ文系を採るのか?
当初の疑問であった「事務系仕事は理系でも出来るけど、技術系仕事を文系は出来ない。じゃあ採用が文系を採る意味ってどこにあるんだろう?文系にしか出来ないことってなにかあるのか?」に対して直接的な回答をしてみようと思う。

メーカーにおいて文系を採用する理由は、「何の疑問もなく、それを当たり前として事務作業をやってくれるという特性を持つから」ということに尽きる。理系であればやりたがらないような仕事(例えばペーパーワークとか労務管理とか)も、文系であれば超優秀な人がそれをやってくれるのである。だから「ある一定レベル以上で事務系の仕事をしてくれる優秀な社員」をそれなりの数確保しようとした場合に、文系と言うのは非常に都合がいいのである。決してその能力を買っているのではない。

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興味関心の重要性。
文系社員を卑下にしているのではないし、事務系の仕事をバカにしているのではない。実のところ、最後は事務系も技術系も関係ない。入口が違うだけで、歳をくってから・偉くなってからやる仕事は技術系も文系も似たようなことなのだ。すべては「興味関心をどこに持つか」。目を向けるようになれば文系でも技術的なものを理解して人に説明するくらいは出来るようになる。

否が応でも自然と事務作業が必要とされる環境に駆り出されていく理系に比べて、技術を知るための機会を自分でつかみに行かないといけない文系には、それを乗り越えるための “興味関心” というアイテムが必要になる分ハードルが高いだけ。「自分は事務系」と枠を決めて技術や製品に対する関心を捨てることをしている内はものづくりをしている会社において文系が優位になることはないだろう。一方で、興味関心を持ってやっている事務系ならば十分に対等だし、その存在意義はあると思う。これらは「差」ではなく「違い」でしかないから何が優位で何が劣位なのかはその時々、その場面によって変わるだろうから。

数字だけ動かしてても何も始まらず、常に人や物がその先にいることを意識した考えが出来るかどうか。「誰が、何を、どういう状況で、どうやって、どういう想いで、作っているのか?」にまで考えを巡らせなきゃいけないのは文理共通。その上で事務系な仕事をするのか、技術系な仕事をするのか、ただそれだけだと思う。事務系職場のトップが元理系だったりするのは、単純に自分のとこで作ってる物を知らない文系しかいなかったか広く見てる理系がいたからだ。

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おわりに。
大きく捉えれば自然と仕事の幅は大きくなる。何よりせっかくものづくりやってる会社に入ったんだ。ものづくりを楽しんで仕事をしていきたいじゃん。

っていうはなし。